東京高等裁判所 昭和30年(う)3417号 判決
被告人 石川勝
〔抄 録〕
論旨第一点ないし第五点。
原判決挙示の証拠によれば、本件物件が、昭和二十二、三年、頃地中に埋没された隠匿物資として摘発を受けた際、その埋没個所の掘出が充分でなかつたため摘発漏れとなつた都酒造株式会社(元大野化学機械株式会社)の所有物であり、且つ、同会社が終戦当時占領軍に取り上げられるのを囘避するため軍管理官の命令により当時田中なる者から借用していた土地中に埋没隠匿したものにかかり、偶々右摘発によりその全部が掘り出されたものと考えられたところから錯誤により爾来そのまま地中に放置されて時日を経過したにすぎず、決して右会社においてその所有権を抛棄したものでないことが明らかであつて、該物件は刑法第二百五十四条にいわゆる占有を離れた他人の物に該当するものといわざるを得ない。而して、被告人が掘り出した原判示錫材がその量において約一屯四百五十瓩であつたこと及び被告人において該物件が右事情にかかる他人所有の物件であることを承知しながら掘り出して擅にこれを他に売却したものであることも前示証拠によつてこれを窺がうことができ、記録を精査するも以上の事実を覆すに足る証左はない。果して然らば、原審が原判示事実を認定した上、被告人を刑法第二百五十四条所定の占有離脱物横領の罪に問うたことは正当である。原判決には審理不尽ないしは原判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認又は、法令適用の誤を冒した過誤はない。所論において、本件物件は、国によつて強制的に没収されたものであるという趣旨の主張もしているが、法令上及び証拠上これを認むべき何等の根拠もない。所論縷々述べるところは、要するに、原審がその専ら有する判断権に基づき、証拠の価値ないしは事実の認定について条理、経験の法則に従がい自由に判断して所断したところを非難するものであつて、採用するに由がない論旨はすべてその理由がない。
(三宅 河原 遠藤)